日大アメフト部の問題について考える ー 復帰へのプロセスを明示しよう

NFL・アメフト

アメフトの名門日大が揺れている。

アメフト部だけの問題なのだろうか。

大きな組織が陥る問題点を学ぶいい機会じゃないかな!

 今回は日本大学アメフト部の事件について考えます。(以下、日本大学を日大と略します)

 薬物に関する情報は、日大側に去年からもたらされていたとのことである。時系列に出てきた事実のみを簡潔に挙げていきます。

2022年10月

 薬物使用の疑惑について保護者から情報があった。アメフト部の指導陣が部員への聞き取り調査を実施する。

2022年11月

 薬物を使用したと自己申告する学生が現れる。日大は、日大OBの警察官へ個人的に相談し、「物的証拠がないので立証困難」との回答を得て、本人には口頭による厳重注意を行った。

2022年12月

 警察から大麻使用に関する情報があった。

2023年6月30日

 警察から大麻使用に関する情報があった。沢田康広副学長と競技スポーツ部長が寮を視察したが、違法薬物は見つからなかった。

2023年7月6日

 警察から大麻使用に関する情報があった。アメフト部のヒアリングを開始、寮にいた学生の同意を得た上で荷物検査を実施。その際にある学生の所持品の中から問題になったものが発見された。

2023年7月18日夜

 日大が警視庁へ通報。

2023年7月28日

 鑑定で、植物片は乾燥大麻と確認され、錠剤から覚醒剤の成分が検出される。

2023年8月3日

 警視庁は寮を捜索、大学関係者から事情を聞いて経緯を確認する。

2023年8月5日

 覚せい剤取締法違反と大麻取締法違反の疑いで部員1名を逮捕。大学は無期限の活動停止処分を発表する。

2023年8月8日

 酒井学長が、「事件が解明したら、できるだけ早い時期にスポーツの現場を取り戻していきたい」と発言。

2023年8月9日

 日大、関東大学リーグ戦参加の意向を関東学生連盟へ申し入れる。

2023年8月10日

 日大は、無期限の活動停止処分にしていたアメフト部の処分を解除、逮捕された部員のみを無期限の活動停止処分にしたと発表。

 関東学生連盟の臨時理事会が開かれ、日大に出場資格の停止処分を決定する。

 一連の騒動はこのような経過をたどって今に至っております。漏れている事実もあるかと思います。

 日本の学生スポーツには、昔から「連帯責任」を取らせる風潮があるのは、ご存じかと思う。典型例は、高校野球である。甲子園常連校であっても、部内で飲酒、喫煙などがあった場合、甲子園を目指す地方予選にも参加しない・させない形で責任を取る。1人が問題行動を起こすと全員で責任を取るのである。なぜ、全員で責任を取らなければならないのか、明確に説明できなくても1つの形として正しさを感じてしまう。連帯責任を取らされたその他の人はたまったものではない。世に出る機会を永遠に失うという被害しか残らない。じゃあ、逸失した利益を、その問題行動を起こした人に損害賠償請求できるかといったら、自分は悪い側の人間なのでそのようなことができるのだろうかと、ほとんどの人が尻込みし、諦めてしまうのではないだろうか。行き過ぎた「連帯責任」の良くない部分である。

 逆の考え方も存在する。悪いのはその1人、他の人には影響せず普通にスポーツをやらせるべきだという考え方。悪いのはその問題行動を起こした1人であり、その他の真面目にやってきた人間には影響しないと考える。単独の個人がやったのならこちらを取るべきではないのか。事案を個別具体的な検討の下、判断されればよいと思うが、どうも「連帯責任」を取らせる方向性が強いように感じるところである。

 この連帯責任についてどのように考えるかという問題は、さまざまに形を変えて身近に存在しているような感じがするのである。少しの脱線を許して欲しい。

 例えば、「右翼」と「左翼」の対立である。

 「右翼」「左翼」の語源は、1792年に招集されたフランス国民議会に由来する。議長席から見て左側には、王権をアンシャンレジーム(旧体制・時代遅れ)と見なして打倒を目指す急進派が陣取った。右側は王党派という体制維持を目指す人たちが陣取った。

 左翼は、純理論的な立場である。完全な情報が与えられるという条件の下、理性に立脚すれば、誰しも正しい結論に至るとして政治活動をしていきます。一方の右翼の立場は、理性が不完全なものとだと考える。人間は、育ちや環境によって間違いを起こすこともある。教会や王などの存在理由は合理的に説明ができない部分はあるけれども、長い歴史の中で存在するのは、そこに人知を超えた何らかの英知が存在するから尊重しなければならないと政治活動をしていきます。右翼は、少しモヤッとしたものを大切にするイメージになります。

 もう一例、刑法学の「行為無価値論」と「結果無価値論」である。

 「行為無価値論」というのは、犯罪の結果の発生のみならず、犯罪行為の動機なども違法性の判断に含んでいく考えです。「結果無価値論」は、結果の発生をもたらしたことがまず違法だと考える立場です。ざっくりとお話しましたが、「行為無価値論」の方が様々な犯罪事情を考慮するのに対して、「結果無価値論」は結果だけを純粋に見ていく方向性があると思ってください。

 「連帯責任」に関して純粋な理論だけで考えていくと、「左翼」的、「結果無価値論」的になるのではないでしょうか。少なくとも私はそのように感じました。以上、脱線終了です。

 さて、今回の日大はどのような立場を取ったのだろうか。

 日大は、「この度の問題は部員1名による薬物単純所持という個人犯罪であり、個人の問題を部全体に連帯責任として負わせることは、競技に真剣に取り組んできた多くの学生の努力を無に帰することになり、学生の成長を第一に願う教育機関として最善の措置ではないと判断したためです」と説明し、小池百合子的に言うと「学生ファースト」、「連帯責任」論では純理論的な立場を取った。

 これに対して関東学生アメリカンフットボール連盟(KCFA)は、日大に対して「当面の間の出場資格の停止」とすることを決定した。このHPについては理由も含めて読んでもらいたい。

 分かりやすくKCFAの決定理由、処分内容を要約すると、「大学組織の問題点をスルーして、賢しらに‘学生ファースト’とか‘そもそも連帯責任とは’とかホザいてんじゃねえ!」という感じであろうか。SNSでは、「まさに正論」などと賞賛する意見もあったほどだ。

 日大アメフト部は、2018年に悪質タックル問題を起こしている。その後、懲戒解雇したコーチ陣と日大は和解した。

 2021年、田中英寿元理事長の脱税事件に端を発して、権力が元理事に異常集中する大学内部の組織の問題点が報道された。結局のところ、先の和解は、元理事長が懲戒解雇したコーチ陣を救ったのではと考えてしまう。元理事への権力の異常集中に体育会は重要な役割を果たしている構図が感じられる。

 現在、元理事長に対して日大は、損害賠償を請求している。しかし、組織が健全であるなら、学生から集めたお金は、もっと適切・有効に使われていたはずである。組織の健全さを取り戻すことが「学生ファースト」を実現する第一歩なのである。

 組織の健全さを取り戻すことなく、疑惑をスルーし、自分たちは「学生ファースト」でやっていますと言う日大に対し、KCFAは「おまいう」を喰らわせたのだ。

 私は、このKCFAの決定理由、処分内容については、日大を切り捨てようとしたものではなく、むしろ愛情あふれる配慮に満ちたものであると感じた。

 私が愛情と配慮を感じた最初の理由としては、日大側が主張した連帯責任の問題点については否定していないこと。

 次に処分理由の4点が明示され、クリアしたとKCFAが認めた場合、日大アメフト部のリーグ戦出場を許可すると明言していること。

 最後に日大アメフト部からの事実確認を含む報告を待っていると明言していること、が挙げられる。

処分理由にも愛情と配慮を感じます!

 4点の処分理由について、なぜ私が愛情と配慮を感じたのかをさらに説明する。

・処分理由①②について

 もし、リーグ戦に参加し始めた後、他の部員の逮捕があった場合、廃部がほぼ確実になってしまう。なぜなら、8日の会見において、副学長が「複数、多数の者が関わっていたというのであれば」という仮定ではあるが、「廃部の可能性がある」と述べているからだ。

 「学生ファースト」といいつつ最悪の事態である「廃部」に不用意に一歩近づこうとした日大に待ったをかけたのは愛情あふれる配慮だと思う。

・処分理由③について

 連帯責任の問題点を盾に日大は、無期限の活動停止処分をわずか5日解除した。このことだけでも批判されている。再発防止策の提示ならびにその実施を要求することで、一定期間対外試合ができなくなる。これは活動停止期間が延びたのと世間的には変わらない。厳密に言うと練習とかはできるので微妙に異なるけれども…。他の大学でも大麻を使用して部全体が活動停止になった事例はあるが、最低でも数ヶ月は継続している。KCFAの処分理由③は「そんなに早急に活動し始めると批判を受けることになりますよ」と、愛情あふれる助言しているようにも思われる。

・処分理由④について

 ここについては、「部関係者(指導者、学生を含む)の責任」と限定して記載した点に配慮を感じる。日大の組織全体が腐臭を放っていているような対応があったにもかかわらず…である。

「新しい日大をつくる」というモットーを掲げた日大。

組織改革は進んでいないようだ!

 日大は、悪質タックル事件、元理事長の背任ならびに脱税事件など、不祥事が相次いだ。2022年7月に初の女性理事長として林真理子氏が就任。「新しい日大をつくる」というモットーを掲げ、組織改革を目指していた。

 しかし、今回の事件の日大の対応はその組織改革が全く進捗していないことを露呈していると感じる。

 日大の組織には問題点がある。今回の事件の対応の中から指摘する。

 去年の10月に部員の保護者から大麻に関する調査依頼を受け、アメフト部の指導陣が部員への聞き取り調査を実施した。しかし、保護者からの情報と聞き取り調査の実施について、競技スポーツ担当の副学長がこれを把握したのは、今年7月ごろだった。

 去年の11月に薬物を使用したと自己申告した学生が現れた。日大はOBの警察官へ個人的に相談したのみで処理した。正式な手続きに乗せれば、その自己申告した学生が起訴されるかは別として、一定の捜査が行われ、今回のような結末にはならなかったはずである。またこの件に関し、林理事長は8日の記者会見で「最近聞いた」としている。

 2023年7月6日、アメフト部寮で荷物検査を実施し、植物片と錠剤が見つかった。その後、日大が警視庁へ通報したのは18日の夜だった。競技スポーツ担当の副学長は『発見されたブツは大麻のカスかもしれないと思った』にもかかわらず12日間警察に通報しなかった。少なくとも「疑わしい物」であるとの認識がある時点で警察に通報する義務がある。ちなみに競技スポーツ担当の副学長は検事出身である。この件に関し、林理事長が報告を受けたのは発見から7日後だった。

 まず、日大の対応の問題点は、正規のルートに乗せることなく身内で処理しようとするところである。指摘した3件とも即座に警察に通報(正式な手続きにのせる)すれば、結果は変わっていたはずである。日大には内々で済ませてしまおうという体質が残っている。

 次の問題点は、アメフト部の指導陣、学長・副学長、理事長・理事会などの情報伝達が機能していないところである。即座にしかるべき部門の責任者に連絡されれば、警察に通報しようぜ!など、違う意見が出た可能性がある。それぞれの部門でミスをしてはいけないというメンツにこだわる体質があるのかも知れない。結果として自浄作用が機能しない組織になっている。

 最後の問題点は、組織改革のキーマンになるべきだった競技スポーツ部担当の澤田康広副学長と林真理子理事長が上手く機能していないところである。

 組織改革が難しいのは理解できる。組織改革の第一歩は、不正があったらそれを白日の下に晒し、組織内に溜め込まないようにすることではないだろうか。検事出身の沢田副学長には、司法に関わった者として不正を組織内に溜め込まず、明らかにすることが求められていたはずである。今回の12日間警察へ通報しなかったのは、隠蔽行為に等しいのではないだろうか。

 外部から就任した林理事長は、重要な情報について知らされていない。理事会については毎週開かれるはずであるから、そのような情報が入ってこない方がおかしい。日大側も林理事長を‘お客さん’的に扱っていたのではないか。林理事長も外部から来たから遠慮するのではなく、外部出身だからこそガンガンとツッコむべきだったのではないか。組織改革を期待されて理事長に就任した以上、組織にメスをどんどん入れていかなければならなかったのではなかろうか。

 KCFAは、日大の組織に対する不信感を感じた。今回の決定の原因はこれに尽きる。

とにかくスピード感のある対応が求められている。

復帰へのプロセスの明示を急ごう!

 では、冷静に日大の復活について、お話ししようと思う。もう少しお付き合いいただきたい。

 SNSなどでは、「日大アメフト部は廃部にしろ!」という意見がある。度重なる不祥事だから当然出てくる意見だと思う。

 しかし、ただ廃部にすれば良いのだろうか。廃部にしてこの騒ぎを収めると日大の組織改革は全く進まないことになる。アメフト部をトカゲの尻尾のように切り捨てて、日大はそのままという形にならないだろうか。

 アメフト部の問題と日大の組織の問題は別、アメフト部は廃止で、日大は組織改革を続けなさいよ、という意見もあるだろう。

 正直なところ、どちらが正解かは分からない。

 しかし、部を存続させる決断をした以上、日大は組織の膿を出し切って組織をヘルシーにしなければならないと思う。

 日大は今回の事件を契機に、団体競技の部内で薬物犯罪者が出てしまった場合の活動停止から活動再開までの一般的な処理方法を確立させなければならないのではないだろうか。役立つ基準のようなものを確立させることで世間に納得してもらうのが1番良いのではないかと思う。それが日大の復活になるのではないか。

 おそらくKCFAの4点の処分理由がヒントになるのだろう。活動再開のための手続きについて、私の案を提示してみる。

  • 逮捕者が出た段階で、他の部員全員の尿検査、血液検査、毛髪検査を実施する。検査に応じない者は、退部させる。
  • 活動停止期間中に薬物乱用防止プログラムを実施する。
  • 薬物を使用した学生は退部・退学処分にする。
  • 注意義務などを明確にし、監督、コーチの処分をしやすいようにする。
  • 問題発生時には、即時に警察へ通報。学内のしかるべき部門へ連絡を取る、その方法、連絡先の明示。
  • プログラムの完了ついて、関係各所へ報告する。
  • 部の活動再開について、関係各所から許可をもらう。

 などであろうか。もちろん、私の案なので果たしてこれで十分なのか、穴があるのかは分からない。

 問題発生当初から適切な処理がなされていれば、批判はあっただろうがこんなにも窮地に追い込まれることはなかったはずである。日大は早急に復帰プロセスを明示し、周りの了解を得て、粛々と実行するべきだと思う。誰かのツッコみが入る前に自ら実行しないといけない、緩慢で動きの悪い組織だと見なされた時点でさらに世間の声は厳しいものとなることは明らかである。

 大麻を吸った本人が1番悪いのは確かである。しかし、大学の対応の拙さでアメフト部は死地に追いやられたような気がしてならない。

【その後の情報】

2023年8月15日

文部科学省は、7月の日大の警察への通報が12日間遅れたことについて検証するよう要請した。

2023年8月17日

KCFAは、日大からの報告を受けて臨時理事会を開き、処分を解除しないことを決定する。これにより、9月16日に予定されている早稲田大学との試合の中止が決まる。

2023年8月21日

日大はコーチのパワハラ行為について、今月中に調査結果が出る見通しであることを明らかにした。ただ、内容については「プライバシー保護の観点から公表する予定はありません」としている。

2023年8月22日

警視庁薬物銃器対策課は、新たに一部の部員が違法薬物の所持などに関わった疑いが強まったとして、大麻取締法違反などの疑いで、アメフト部の寮を家宅捜索した。逮捕された部員以外に少なくとも学生4人、卒業生6人程度が7月の時点で違法薬物の使用を認めていたことが判明。

2023年8月28日

関東学生アメリカンフットボール連盟の広田慶理事長は、取材に応じ、部員が違法薬物を所持したとして逮捕された日大アメフト部に科している「当面の間の出場資格停止」処分が、現時点で解除できる状況にないと明らかにした。「いまだに、いわゆる疑念が払拭できていないという報告をいただいてるということ」と説明した。

9月以降の情報については、また別にお話ししたいと思う。

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